あきらめたら学びの機会を逃しますよ

ソラディスのもとに手伝いに来ていた優香は連日、ノミで木を削るという作業を行っていたが、この作業が苦手でなかなか思うように進めることができなかった。

「私、この作業、むいていません、、、。モチベーションも上がりません、、、」
こう言って、優香は俯いた。助けになれていないのが残念なのか、自分の能力が足りないと思っているのか、随分沈んだ面持ちだ。

ソラディスは普段いつもこう言っている。
「自分がやりたいと思うことをおやりなさい。やりたいと思わないのであればやらなければいい。」

しかしこの時は違った。優香に気づいてほしいことがあったのだ。

「優香がこの作業をやりたくないのはわかりました。しかしできないからといってすぐ投げ出すというのはちょっともったいないと思います。『姿勢』の問題ですね。ということで、あえてこの作業をやってもらいたいなと自分は思っています。もちろん、無理にとは言いませんがね。」

”木は硬くて節があったりして、削るのは手が痛くなっちゃうし、全然役にも立てないからやりたくないなぁ、、、”
優香はまだふさぎ込んでいる。

「嫌だからと言って母が投げ出すとしたら、子供もそれをみてそのように振る舞うようになるでしょう。子供がもうやだと言ってる時にちゃんとやりましょうねと言ったとしても、ママがやらないのになぜ自分はやらなきゃいけないんだ?と思うんじゃないでしょうか?子供はあなたの背中を見て育ちますよ^^」

自信が持てないようでうつむいたままの優香にソラディスは言った。

「こんな作業しないといけないなんて辛い、、と今は思っているかもしれませんが、逆に、こんな辛いシチュエーションに出会えることが出来てラッキーだったと笑えるようになりますよ。フフフ」

優香は考え、次の日にこう言った。

「私、ノミ作業やります!」そう言って優香は作業を始めた。

優香の顔には明るさが指していた。『覚悟』を決めたようだ。

しばらくして優香の様子を見に行ってみると、優香は淡々と堀りを進めていた。

「フシのところが硬いので、いかにそこを避けて切ればいい(節の部分をカットすることでその硬い部分のノミ作業を省ける)かを考えました。」

「どうだい?覚悟というのがいかに重要か分かったかい?自分でやると決めたら工夫するようになっただろう?」

「あと、先に丸鋸で傷をつけておくとかなり削るのが楽になりますね♪」

優香は嬉しそうに報告している。

そしてしばらくして、ついにあんなに苦手意識を持っていた作業をやり遂げた。優香はすごく誇らしい気持ちになった。

「ソラディス、私出来ました!!」

ソラディスは答えた。

「このノミ作業なんていうのはただ一つのきっかけでしかないのです。これを元に色々な学びを得ることができますね。」

「どうですか?子供の気持ちがわかるようになりませんか?」

「裕太ちゃんがパズルが出来なくてやっきりしていましたよね。その時、パズルを投げ出したりしようとした裕太ちゃんを勇気づけ、やり方を教えてあげたらやり通せましたよね。そして、僕出来たよ!!と喜んで報告に来ました。どうですか、その気持、今ならよくわかりませんか?」

「『パズルできないよう!』と言って泣き叫んでいるとき、やり方を教えてあげてできることを感じさせてあげれば相手は誇らしい気持ちになります。次になにか言われたとしても又、耳を貸そうという気持ちになります。
さらにはできるようになったところを見て欲しいと思うようになるでしょう。」

「パズルが出来ないとき、ただ慰めるのもいいでしょう。ただその場合、子供に諦めさせることで『俺、どうせパズルなんか出来ないもん、、、』という思いを持たせてしまったとしたら、それはもったいないですね。」

「パズルに苦手意識を持つだけでなく、あらゆるものに対して、困難な状況になったら投げ出すくせがつくかもしれません。」

「そうすると、苦手意識をもつ対象は膨れ上がっていくでしょう。それにより、チャレンジする意思は削がれ、学びの機会を随分と逃すことになるでしょう。」

「自分はそう思うので、学びの機会になりそうだと感じたときは、できるだけ逃げずに乗り越えてもらうように背中を押してあげることにしています。」

優香はハッとし、顔が輝いた。

”そうか!自分ができなかったのは能力が低かったからじゃなかったのか!いつもただ逃げ出してただけだったから、工夫もせずに上昇の余地も自ら削っていたんだ、、。そしてそんな背中を裕太ちゃんにも見せてしまっていたんだ、、、”

「辛いよう、、、と言っていたシチュエーション、、実は得られてラッキーだったなと言えるようになりますよと言った意味、わかったでしょう?フフフフフ。」

ソラディスは満足そうに笑った。