神様、『痛み』をくれてありがとう!

「くそ~、やけどした。すげぇ痛え。」

タケルは苛立ちながら言った。

「俺も実は足ひねっちゃって、最近ずっと痛いわ。」
と友達の幸三。

「痛いなんて感覚、なくなりゃ良いのにな。まじ無駄!」

というタケルに対し、幸三はこう答えた。

「いや、痛みって結構大事みたいだぞ。痛みを知らないと大けがに繋がるんだ。」

「ん?どういうことだ?」

「実は俺の知り合いに痛覚がない人がいるんだ。その人、自分の指をかむ癖があるんだけど、痛みを感じないから結構強く噛んじゃうらしい。血がダラダラ出るくらいに噛んじゃうんだって。ちょっと怖くねぇか?」

「う~む・・・」

タケルはそれから、痛みについて考えることが多くなった。

”痛みってなんだろう?なんで俺達にはそんな機能が備わっているんだ?”

”最近、目や頭が痛いことが結構ある。でも、それはスマホの見すぎだな。痛みがなかったら際限なく見ちゃって、最悪、目が見えなくなる、、、なんてこともあったりするのかな、、、。”

”そういえばこの前の虫歯は無茶苦茶痛かったな。でも、歯磨きが適当だから虫歯になるんだよな。それはわかっていつつも、つい、歯磨きをさぼってしまう。あれだけ虫歯がいたかったからいまはちょっと真面目に歯を磨いているけど、虫歯がいたくなかったら磨いていないな。でもそうしたら、俺の歯は壊れちゃったのかもしれないな、、、、。”

あれほど「痛みなんて無くなれ!」などと言っていたタケルだったが、知らぬうちに「痛みは必要なものなのではないか」という気持ちの方が強くなっていた。

”『人生は学びである』って聞いたことあるぞ。実は痛みって言うのも学びのためのヒントなんじゃないか?うん、うん、なんかそんな気がしてきたぞ!!”

なんだか賢くなった気がしてちょっぴり得意になっていたタケルだったが、ここで急にハッと真剣な面持ちになった。

”いや待てよ、、『心の痛み』はどうなんだ?”

”いじめられて辛いとか、好きな人が死んで悲しいとか、、、”

タケルは物凄く深い問題にぶち当たった気がした。

そして体の痛みについて考えたときと同じように、今まで自分の心が痛んだ時の事についていろいろと考えを巡らせた。

『心の痛みもやはり必要なものなのだろうか?』

タケルは何度も何度も考えた。

何日も何日も考えた。

途中、あまりに答えが出なくて諦めたときもあった。

しかし、少しするとまた探求を再開した。どうしても答えが知りたくなったのだ。

はっきりとした答えが出ぬまま、気づくともう5年も経っていた。しかし、タケルは事あるごとにまだ『心の痛みの意味』について考えを巡らせていた。

”最愛の人を失って悲しいという場合、悲しんでも悲しまなくてもその人は戻ってこない。そうであれば、悲しむ意味なんてないんじゃないか?なぜ、悲しまなくてはならないのだろう?”

タケルは親友の幸三に聞いてみた。

”歯が痛いのは自分が悪い。でも、好きな人が死んでしまった時なんかは自分にはどうしようもないじゃないか、、、。そんなのがなにかの学びになったりすることなんてあるのだろうか?”

幸三は答えた。

「俺さ、大学生の時、母親死んじゃったじゃん。そん時すっげぇ悲しくってさ。実家なんか全然帰らないで友達とかと遊んでばっかでさ。気づいたらあっけなくいきなり死んじゃってさ、、、」

「あん時思ったよ。もっと母親との時間を大切にしておけばよかったなってさ。確かにそんなの後の祭りで、母親にもう一度優しくしてあげるチャンスなんてないんだけどさ、、、、」

幸三は凄い真面目な顔をした。

「でもよくよく考えるとさ、俺、まだ父さんいるじゃん。だから、父さんとの時間大切にしようと思ってる。そう思わせてくれたのはさ、母親の死だったりするんだよな。これってさ、実は学びじゃねぇか?」

「なるほど、、、」

タケルは深くうなずいている。

「これはつまり、痛みって言うのはそれがその人にとって悪いことをしているというだけの意味ではなく、もっと深い学びがあるということだな。ということは、母親の死で悲しむことで父親のみならず、兄弟との時間も大切にしたほうが良いと教えてくれているのかもな。」

「いや待てよ!」

「これはもしかして、ただそれだけじゃないんじゃないか?!」

「ん?どういうことだ?」

そう聞く幸三に対し、タケルは興奮しながら答えた。

「母親の死はその死んだ母親だけでなく、その他の人も大切にしようと思わせてくれるだろう?それと同じでさ、その悲しみを感じた人だけがそこから学ぶだけではなくて、それ以外の人も学ぶことができると思うんだよ。例えば俺もさ、さっきの幸三の話聞いてちょっと思ったもん。俺も両親を大事にしなきゃなってさ。」

「なるほど、深いな。」

「あぁ、深いな、、」

 二人はなんだかじんわりと心が暖かくるなるのを感じていた。