相手を幸せにしようという思いが、結局は自分を幸せにする

子育てについて陽子といつみが話している。

陽子;「最近、うちの子、嫌々がひどくて、、、。一度スマホで動画とか見せると、全然返してくれない、、、」

いつみ;「あるある~。うちの子もおやつにパンとか渡したら絶対離さない。私にもくれないんだよ、、、」

二人の会話を聞いていたソラディスは、少し離れたところに座っていた、いつみの息子のレン君に近づき、目の前にちょこんとしゃがみこんだ。

レン君は大好物のパンをかじっている。

ソラディスはレン君になにか語りかけている。そして、レン君をひょいと抱えあげると二人のもとに歩いてきた。

「『子供は言うことを聞いてくれない、、』というような話が聞こえてきました。一つ聞かせてください。」

「では、お母さんであるお二人は子供の言うことに耳を傾けてあげていますか?」

陽子は答えた。
「聞いてあげたいですけど、うちの子はまだ一歳なので言葉は話せませんよ?」

「言葉が話せなくても、心は通じますよ^^」

そう言ってソラディスはレン君を床に下ろし、「私にそのパンをくれないか?レン君。」と言ってレン君に手を伸ばした。

すると、レン君は素直にソラディスにパンを渡した。そしてそのパンを少しかじり、レン君に返した。そして再度レン君にパンをくれと頼むと、これまたレン君は自然にソラディスにパンを手渡した。

この光景を目の当たりにしたいつみはびっくりした。「ママにもくれないのに!!」

そんないつみの表情を見ながら、ソラディスは優しく尋ねた。

「いつみさん、なぜ、レン君はあなたにパンをくれないのでしょう?」

「え?なんでだろう、、、」

「すごく簡単ですよ。自分がレン君だとしたら、パンを渡したくなかったりするのではないですか?」

「自分のパンが取られるのが嫌だからですかね。」

「そうですね。では、なぜ私にはパンをくれたのでしょう?」

この問にいつみはうーんと唸った。

「なんでソラディスにはパンを渡すんだろう?私にはくれないのに、、、。」

「ソラディスの事が好きだから?いやいや、私のことも好きなはず。ソラディスならパンをあげたら喜んでくれるから?う~ん、、、全然わからない、、、、」

横では陽子も一緒に考えているが、二人共まるっきり答えがわからなかった。

そんな二人を見てソラディスは説明を始めた。

「パンをもらうという行為自体は私もいつみさんも同じ。しかし、自分といつみさんではレン君に対する接し方が違うんだ。」

「小さい子供では言葉が通じないから語りかけるのは無駄だと思うかもしれない。相手がしっかりとした思いなんかまだもっていないと思うかもしれない。そうして相手の気持に耳を傾けないと、信頼関係は生まれないんだ。」

「具体的に、自分がレン君と心の中で話した会話を教えてあげよう。」そう言ってソラディスは説明を続けた。

「レン君、そのパン、ちょっと貸して、すぐに返すよ。はい、ありがとう、食べていいよ。ね、もう一回貸して、すぐに返すよ。ふふ、自分には貸してもすぐに返してもらえるだろう?だから安心していいよ。レン君が嫌がることはしないから。」

「ね~、レン君、そのパン俺にもちょっともらえるかな?大丈夫、すぐに返すよ。一緒に食べよう。レン君も食べて、俺も食べる。一緒に幸せを分かち合おうよ。レン君、ちょっとくれるかな?少し食べたらすぐに返す。二人共笑顔になるよ~」

「わかるかな?自分は相手からパンはもらうけど、大切なものは奪わない。相手が大切にしているモノ、、、、相手の『幸せ』はね!これを相手に伝えてあげることで、安心感を与えるんだ。たとえ何をしたとしても、相手とは愛で繋がっていることを示すんだ。

「いつみさんが何をしようとも自分はいつみさんを嫌いになることはないと前に言ったけど、それと同じことをレン君にも言っているんだ^^」

「・・・そんな事してたんですね、、、。」いつみと陽子は自分たちにもそんな事ができるのだろうか?とぼんやり考えていた。

ソラディスは説明を続けた。
「これは物凄い重要な学びだよ。パンをもらえるかどうかとかそんな狭い話ではないんだ。全てに当てはまる。陽子さん、前に役所の人が全然話を聞いてくれないと嘆いていたよね。それも実は同じなんだ。働きかけ方を変えれば、相手は喜んで協力してくれたりするんだ。」

「相手の幸せを望んでいる気持ちが伝わればいいんだ。私は何があってもあなたが大好きですよ、あなたが幸せでいることが私の幸せなんですよってね。相手を幸せにしようという思いが、結局は自分を幸せにするんだ。」

「これは技術とかではない。本当に相手の幸せを望むのでなければまるで効果はないよ。あんた、私のためにちゃんと働きなさいよ!なんて思いではまるで違う。」

ソラディスの説明を聞きながら、「そんな事できるんだ、、、」と関心はしつつも、陽子もいつみも自分自身もやれるという気にはなれなかった。

二人の気持ちを感じながら、ソラディスは優しく口を開いた。

「あなた達にもできるよ。まずはレン君からパンをもらってみなさい。」

そう言うと、ソラディスはフフフと笑いながら外に出ていってしまった。

いつみは自分なんかにできるかしら?と懐疑的だったが、もし出来たら凄く嬉しい!という興味のほうが勝ち、ソラディスを真似してレン君に話しかけてみた。

「ね~、レン君、ママにもパンをちょうだいよ。幸せは奪わないよ。一緒に幸せになろうよ~。」

すると、レン君は笑顔でパンを差し出した。
これをみて、やった本人のいつみが凄く驚いた。陽子も隣で唸っている。

「本当にできるんだ!本当にできるんだ!」
いつみは興奮した。

「なんにでも応用できるとかソラディス言ってたよね!」陽子も興奮している。

二人の心の変化を感じ取り、ソラディスは散歩をしながらも幸せな気分に包まれた。