希望を見出す

陽の光がまだらに落ちる森の片隅に、僕は生えていた。名もない、ただの草だ。

僕は、毎日同じ場所から同じ景色を見ていた。そびえ立つ木々、華やかな花々、そして僕と同じように地面に根を張る仲間たち。僕らは植物。動くことのできない存在。それが世界の真理だと、疑いもしなかった。

「ああ、もう少しあちらに行けば、もっと陽が当たるのに」

そんな風にため息をつくのが、僕の日課だった。諦めは、僕の根っこと同じくらい、深く僕自身に張り付いていた。

そんなある日のことだ。隣で静かにしていたはずのヤツが、にゅるりと緑の腕を伸ばし始めたのに気づいた。それは「つる」と呼ばれるものだった。ヤツはそれを近くの木の幹に絡ませ、一日、また一日と、少しずつ空へと向かって体を持ち上げていく。今まで僕と同じ目線にいたはずが、あっという間に僕を見下ろす場所まで移動していったのだ。

「なんだよ、あれ…」

僕は呆然とつぶやいた。「植物は動けない」という僕の中の真理が、ガラガラと音を立てて崩れていく。しかし、すぐに諦めの気持ちがそれを塗り固めた。

「俺には、つるなんかねえよ。結局、俺はここから動けないんだ」

そう自分に言い聞かせ、再び地面を見つめる日々に戻った。

季節が巡り、風が心地よくなってきた頃、今度は別の光景が僕の目に飛び込んできた。近くに生えていたタンポポが、その花をふわふわの綿毛に変え、風が強く吹いた瞬間に、それを一斉に解き放ったのだ。白い種子たちは、まるで自由を謳歌するように空高く舞い上がり、森の向こうへと旅立っていく。それは、新たな土地で自分の命をつなぐための、壮大な「移動」だった。

またしても僕は打ちのめされた。つるで移動するヤツがいて、今度は種を飛ばして移動するヤツまでいる。

「俺には種を飛ばす技術も、あんな綿毛もねえよ…」

絶望は深くなるばかりだった。自分だけが、この狭い世界に取り残されていくような感覚。もう何も考えるのはよそう。僕は固く目を閉じた。

どれくらいの時が経っただろうか。鳥のさえずりでふと我に返ると、一羽の小鳥が、僕の近くにある低木の枝にとまっているのが見えた。その低木には、艶やかな赤い実がたわわに実っている。鳥は、その実を実に美味そうについばみ始めた。

「腹を満たしているだけか…」

そう思った、次の瞬間だった。鳥は満足げにさえずると、空へと羽ばたいていった。そして、遠くの木の枝にとまり、小さな黒いものを落としていった。…フンだ。

その時、僕の全身に、まるで雷が落ちたような衝撃が走った。

「そうか…!」

あの低木は、自分で動いたわけじゃない。種を飛ばしたわけでもない。自分の実を、鳥にとって最高にご馳走になるように「工夫」したんだ。甘く、美味しく、目立つように。そうすることで、鳥に食べてもらい、自分では到底行けないような遠い場所まで、種を運んでもらっていたのだ。

つるを伸ばすことも、種を飛ばすこともできない。しかし、あの低木は自分の「実」という武器を最大限に活かし、鳥という他者の力を借りて移動するという、全く別の道を切り拓いていた。

僕はずっと、「できない」ことばかりを数えていた。つるがない。綿毛がない。だからダメなんだと。

「できない」と言って諦めるのは、なんて簡単だったんだろう。

でも、あの低木は教えてくれた。方法は一つじゃない。自分にできることは何か。自分の持っているものをどう活かすか。本当に工夫すれば、道は開けるのだと。

僕には、つるもなければ、遠くまで飛ぶ種もない。じゃあ、僕には何がある?僕の葉っぱは?僕の根っこは?僕の出す匂いは?何か、何か僕だけの方法があるはずだ。

今まで諦めに支配されていた僕の心に、小さな、しかし確かな希望の光が差し込んできた。

明日から、どの虫が僕の葉を好むのか、観察してみよう。僕の根の周りには、どんな生き物が集まるのか、感じてみよう。

もう「動けない」なんて嘆くのはやめだ。僕だけの「自由の獲得」方法を、これから見つけてみせる。そんな気が、力強くしてきたのであった。

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