優先順位

ある小さな村の出来事。

和夫が住む村に歴史的な大雪が降った。

雪で身動きがとれない人や、自宅に帰れない人が出て、雪崩まで起こっている。
和夫は自宅の周りの雪かきが一段落すると、他に困っている人達に手を貸しに行こうと考えた。

和夫は小学校の先生であり、大雪のために学校は休みとなり、動ける時間をとることができたのだ。

救援に向かうに当たり、知人たちにも声をかけてみた。
声をかけた知人は皆、村に最近出来た外国資本の工場に稼ぎに行っている。
そこだとかなりの高給が得られ、生活が楽になるとのことらしい。

知人の一人、Nは答えた。
「行ってはあげたいけど、家を買いたいから仕事してお金を貯めないと、、、。こんなので休んでいたら首になっちゃうよ。」

知人の一人、Mは答えた。
「悪いね、、お金にもならないボランティアなんてやっている余裕はないんだ。大好きなイチゴがどうしても腹いっぱい食べたくてね。イチゴ高いから、、、」

知人の一人、Uは答えた。
「ごめん、ちょっと行けないや。ピーススマイルのライブに行きたいから、お金を稼がないといけないんだ。」

和夫は知人たちを誘うのは諦め、学校が休みで家にいる子供達を連れ、困っている人達の救援に向かった。
子供たちはたまたま通りかかったKさんが面倒を見てくれることになった。

Kさんは言った。
「私は体が弱くて、子供を見るくらいしかできなくてすみません、、。」
子供を見るくらいしか、、、、それがどれだけ助けになるか!
和夫はKさんに礼を言い、道を急いだ。

少し行くと車が雪ですっぽり埋まっていた。
もしかしたら人が入っているかもしれない!
急いで雪をどかすと、中でぐったり倒れている人がいる!
それは村でただ一人の大工さんだった。
和夫は大工さんの無事を確認し、近くの人に看護を頼み、更に雪深い所に入っていった。

更に道を進むと助けてくれー!という声が聞こえた。
行ってみると村でただ一人のイチゴ農家が雪に埋まっている。
雪かき中に屋根から雪が落ちてきて埋まったらしい。

イチゴ農家を救出後、更に進むと、屋根が雪の重みで潰れている家を発見した。

雪をどかしつつ中を見ると、ピーススマイルのギタリストが凍えながら丸くなっていた。
バンドの練習中、急に屋根が崩れてきたらしい。

和夫はうーんと唸った、、

村には大工もイチゴ農家もバンドのギタリストもたった一人しかいないのに、自分が助けていなかったら、、、
もしかしたら全員無事に生きてはいられなかったかもしれない、、、

知人のNはお金を稼ぐために救援よりも工場勤めを優先した。
その工場では高級アイスクリームを製造している。
高級アイスクリームの製造をこんな大雪にそんなに急ぐ必要があるのだろうか?

機械の稼働率を上げ、バンバン大都市の住民に売らないと社員の給料が出せないとのことで、休まず出社するのは重要なことらしい、、、。

「お金を稼ぐのは家を建てるためだと言っていたけど、大工が死んでしまったら元も子もないんじゃないのか?」

「Mにしても、お金を稼いでもイチゴ農家がいなくなったらイチゴは食べられなくなることを知っているのか?」

「Uもライブに行きたいんだったらギタリストには健康でいて貰う必要があったんじゃないのか??」

彼らはなぜ、救援よりも工場に真面目に出勤するほうが重要だと思っているんだろう?

でも、結局は大工もイチゴ農家もバンドメンバーも皆無事だ。

今回の背景を知らなければ、工場勤めの人達は、また大雪が降った時も同じ選択を繰り返すのではないだろうか?

もし自分も皆と同じ工場勤めだったとしたら、どうなっていたんだろう、、、

役所では、遠い大都市から大雪で困っている人達を助けるボランティアを募り始めた。
知人たちも、「おぉ、ボランティアが来てくれるそうだぞ!やったな。いっぱい来ないかな^^」などと言って喜んでいる、、、。

和夫は違和感を感じた。

わざわざ遠いところからも助けたいと思ってくれる人がいる、、、
そのボランティアの中には仕事を休んでまで来てくれる人もいるかもしれない、、、
被災地とされる我が村では、仕事を休まずにお金を稼ぎに行く人もいる、、、

ボランティアはやりたい人がやればいい、、やりたくない人が無理にやるものではない。
とは言え、やりたい人の割合が地元に多ければわざわざ遠い所に支援を要請する必要はなかったかもしれないな、、、

和夫はそう思うのだった。

和夫は今回の出来事を皆に知ってもらうことが出来れば、皆の価値観、優先順位というものは変わってくるのではないかという気がした。

「よし!意味があるかどうかはわからないけど、自分にやれることをしよう!」
和夫は今回の出来事を紙芝居にして、学校が始まったら生徒たちに見せることにした。

和夫の顔は、わずかながら希望の光りで輝いていた。