登場人物
トイチ;競争的な生活に疲れ、田舎でのんびり暮らすことを夢見る。精神世界に興味あり。
リンク;農園経営をしながら飄々と暮らす。急に深い話をしたりする。
woof(農業ボランティア)に
「はぁ~、、、」
仕事やら、生活のことやらで色々と気に揉むことが多く、なんだか疲れたトイチは大きなため息をついた。
”なんかこう、もうちょっと楽になんないかな~。田舎でのんびり農的暮らしをするなんて言うのもありかもな、、、”
そんなことを思いつつ、何気なくスマホでSNSサイトを見ていると、有機農家?のボランティア募集に関する記事が目に止まった。
”WOOFか。それもありかもな。有休をとって数日参加できれば、良い気晴らしにもなるし、田舎の農的な暮らしが自分に合うか試せるかもしれない。”
そうしてトイチは一週間、おひさま農園というところにwoofとして滞在することになった。
「来てくれてありがとうございます。楽しくやりましょう~。」
リンクと共に過ごし、おひさま農園のコンセプトが『助け合いで楽しく暮らそう!』だということを聞くと、トイチは自分が悩んでいた環境を変えるヒントが見つかるかもしれないと感じ、更に自分と同じように悩む人々のためにもなるだろうと思った。そしておひさま農園の活動を後押ししたくなった。
しかし、おひさま農園の代表のリンクはなんだか軽い感じで、初日も二日目もガッツリと農作業をするようなことはなく、山登りに行ったり、トイチが滞在する宿泊施設の改修をしたりと大分ゆったりとした内容だった。
”これではあまり自分は手助けになってないのではないか?”
これではもったいないと感じたトイチは言った。
「リンクさん、僕、もっと力になりたいんです。明日はなにかしっかりとやらせてください。」
熱心なトイチの言葉を嬉しく思いながらリンクは答えた。
「じゃあせっかくなので草刈りでも手伝ってもらいましょうか^^」
なんだこの活動は?!
翌朝、リンクの携帯電話が鳴った。
「あぁ、良いですよ~。では待ってますね。」
リンクの友達が栗拾いをしに来たいと連絡してきたらしい。程なくして到着したリンクの友達とそのお子さんを栗の木に案内し、リンクは彼らと一緒に栗を拾い始めた。
それを見てトイチも拾うのを手伝い始めた。
栗拾いも無事に終わり、友人家族を見送ろうとしていると、友人は口を開いた。
「今から友達のゆうちゃんのうちに遊びに行くのだけど、リンクさんも一緒に来ない?」
「良いよ、じゃあ一緒に行こうか。後ろから車でついていくよ。」
結局、リンクはトイチを連れ、一緒に友人とともにゆうちゃんの家に行くことになった。
ゆうちゃんはリンクの知り合いでもあった。
ゆうちゃんの家に向かう車の中、トイチは悶々とした気持ちが込み上がってきた。
「リンクさん、今日こそはちゃんと作業するって言っていたのに、結局朝から友達と栗拾って、それもタダであげちゃっただけで午前は終わるし、今から更に友達の家に遊びに行くのに付き合うなんて、、、。せっかく手伝いに来ているのに全然力になれていません、、、」
打算じゃない、心なんだよ
「トイチさん、私のことを思ってくれてありがとう。力になってくれようとするのはすごく嬉しいです。トイチさんから見ると、自分の動きはただ遊んでいるだけのように思えるかもしれません。どっちに動いたら得かとか、、、そういう観点で見ると、本当に意味のないことをしているように思えるでしょう。でも、自分の場合、そんなのではなく、ただ自分の心に素直に動いているんです。」
心配してくれているトイチに向かい、リンクは静かに説明を始めた。
「そんなんでやっていけんのかよ?と思いますよね?でも、自分はこれまでもずっとこんな感じです。そして不思議と思われるかもしれませんが、自然と進んできているのです。この進み方は計算とか予知ができません。これは経験してみないと理解できないでしょうし、怖くてそんな基準で動いたりはできないでしょう。でも、だから面白いんですよね、ふふふ。」
実はトイチは『心は現実に反映する』という考えに強い興味を持っていた。そしてそれに関する書物を読み漁り、もしそれが本当なのだとしたら、自分も現実をコントロールできるような心を持てるようになりたいなどと考えていた。
そんな背景から、トイチはリンクが自分とまるで違う心持ちでいる事に興味を持っていた。
”この人、本当にこんな感じに生きているのか、、、、。でも、、本当にそんなので大丈夫なのか?”
打算なしに心の思うままに、まるで疑いもなしに行動するリンクを見て、凄いなぁと思いつつも、この時点ではそんなので大丈夫なのか?という心配の方が強かった。
友達の家で
そんな事を考えているうちに目的地のゆうちゃんの家に到着した。
玄関の前に大きなシートが台の上に乗っているのを見て、リンクの目が輝いた。
「あれ?これティピーのシートじゃない?!」
「そう。ポールが壊れちゃって使えないんだ。」
「うち、竹でポールだけは作れるんだけど、シートがなくて探していたんだ。借りてって良いかな?」
リンクはティピーシートを借りることができ、喜んだ。
ゆうちゃんの家は、ご主人がDIYで建てた。トイチは将来、「自分で家が建てられたら良いな」と思っていることを知っていたリンクは、トイチがそのようなお家を実際に見る機会が得られてよかったなと思っていた。
帰り際、ゆうちゃんが言った。
「リンクさん、うちで菊芋が増えちゃって困るほどあるんだけど、もしよかったら持っていきます?」
そう言ってダンボールいっぱいの菊芋を持たせてくれた。
ちゃんと進んでいる!!
帰りの車の中でリンクは口を開いた。
「どうでしたか?今日なんかはすごい良い体験になったんじゃないですか?」
実は2日前、リンクはトイチとこんな事を話していた。
「実は今度、野宿イベントをやろうと思っているんですよ。自分で簡易的に寝場所を確保して、とりあえずそれでも寝れるということを体験しておけば、家の屋根や壁、そして布団などが如何にありがたいことかなんかにも気づけますよ^^自分はテントを持っていないのですが、竹でポールは作れるのでティピーがあったら良いなと思うんですよね。中で火が炊けますしね。でも、そのシート、買うとすごい高いんですよ。生地を買って自分で作るにしても、生地代だけでも結構するんですよね。ということで、今は保留にしています。」
また、こんなことも言っていた。
「自分は野菜が収穫できるとしても、そのために作業に追われるというのであれば、あまり望ましいとは思わないんです。確かに手をかければ作物は収穫しやすいかもしれません。でも、自分の場合はたけのこや山菜のように、毎年何もしなくても勝手に出てくる、そしてただそれを収穫するというような形のほうが好きなのです。だから、自分の手を離れても自然と毎年育ち続けてくれるような作物を見つけ出したり、そのような事が可能な環境を創って行きたいと思っています。それが可能であることを示せれば、やりたいという人は増えると思いますよ♪」
そして今、車の中にはティピーシートと菊芋が載っている。
どちらもリンクが求めていると言っていたものだ。
「仕事もせずに遊んでばかりと思われるかもしれませんが、自分としては自然な行動をとっているだけなんです。そんなので進むわけ無いでしょう?と思うでしょうが、自分の場合、いつもこんな感じなのです。気づくと進んでいる。狙っているわけではないのですが。」
「う~む、、、、」
トイチは唸っている。
心は反映される
「『友達のために栗を拾ってあげるだけで何の得があるんですか?』、『友達の家について行って何の得があるんですか?』トイチさんはこんな事を言っていましたね。」
「多くの人がそのような考え方をします。自分がしあわせになろうと計算して行動し、結局は幸せからは遠ざかる、、、。何故だかわかりますか?」
「・・・」
トイチは必死に考えているが、答えは浮かばなかった。
「あなたは周りと自分を分けている。周りの幸せよりも、自分の幸せを優先している。」
リンクは静かに説明を始めた。
「それでは本当の幸せにはたどり着けません。」
「自分と他人、、そんな区別には意味はありません。全ては心の反映なのです。」
精神世界について色々と調べ、興味を持つトイチは真剣な顔で聞いている。リンクは続けた。
「ふふふ、今言ったことを理解するのは難しいでしょう。でも大丈夫です。先程の例で考えてみましょう。」
「私はティピーシートをもらえると思ってゆうちゃんの家に行ったわけではありません。菊芋をもらえると思って行ったわけでもありません。しかしながら、トイチさんは違ったでしょう?ティピーシートや菊芋が貰えると知る前、行くことは何の特もないと言っていました。逆に、ティピーシートや菊芋が貰えると知っていたら喜んで行ったでしょう?」
トイチはちょっと恥ずかしい気持ちになった。
「残念ながら、そのような心持ちでトイチさんが行っていたとしたら、あなたはティピーシートも菊芋も貰えていないでしょう。」
「あなたが逆の立場で、『ティピーシートくれるんだったら行ってやっても良いぜ』なんて人に言われたとしたらどう思いますか?『別に来なくても良いよ』と思うのではないでしょうか?そのような言葉は口に出さずにも相手には伝わります。」
「確かに、、、」
トイチはうなりながら何か必死に考えていた。
その後更に数日、トイチはリンクの農園に滞在したが、リンクは相変わらず飄々とした動きを見せながらも何故か物事は驚くような形で進んでいた。
そんな光景を幾度となく目にしたトイチは、滞在を終えて帰る際に言った。
「心が現実に反映されるというのは何度も聞いたことがあります。自分もそれを実感したいと思い、長い間試行錯誤してきていますが、未だに実感できておりません。しかし、この滞在で、実際にリンクさんの前で引き起こされる出来事を見ていると、本当に心を反映させることができる人がいるというのはわかりました。でも、、残念ながら自分でできる気はまだ全然しないのですが、、、」
「ふふふ、『そんな訳ないよな』と思っていたのが『それは実際にありえるんだ、、、』と思えるようになったとしたら、それは物凄い進歩です。信じることができないことを成し遂げるのは物凄い難しいですから。自分はこういうのを理解できる人が増えたら良いなと思っているのです。トイチさんに理解してもらえたのであれば良かった^^」
数日の滞在がトイチに何かのヒントを与えられたのであれば良かったなと思い、リンクはニッコリと笑った。