「あーもう、むかつく!」
奈緒はイライラしていた。
そして、いつもイライラしている自分に腹が立っていた。
「なんでこうなったんだろう、、、」
奈緒にはずっと憧れていた人(幸樹)がいた。
いつもキラキラと輝いていて、イラついたり怒ったりしたところを見たこともない、素晴らしい男性だ。
奈緒は自分自身を、物事を否定的に捉えることが多い、ネガティブな性格だと強く感じていた。
だから、幸樹と結ばれた時は本当にうれしかった。
「この男性と一緒なら、私もキラキラ輝けるかもしれない!」
いまでは結婚し、可愛い子供も授かっている。
それなのに、、、
疲れやストレスなどが重なったりすると、奈緒はどうしてもイラつき、思わず幸樹や周りの人に辛く当たってしまったりするのだった。
そしてもっとも奈緒を悲しませたのは、その行為が幸樹の輝きを薄れさせていると感じることだった、、、
奈緒は、イラつき、怒り出すと自分でも訳がわからなくなるほど心が乱れる。
そして怒鳴り、わめき散らし、なぜだかわからないが、心にも無い事まで口から飛び出す、、、
しかも、これ以上ないほどの感情をこめたがごとく、、、
幸樹に言わせると、「何かに取り憑かれたみたい」になっているらしい。
そして、そのような奈緒を目撃した幸樹は、以前からは想像もできない、明らかにちょっと引いた感じになってしまった、、、
幸樹は奈緒が豹変しないよう、細心の注意を払うようになった。
その事が、幸樹の持ち前だった自由な発想や快活な行動を狭めて行ったのだ、、、
そんな幸樹を見て、奈緒はなおさら自分を責めた。
「あの人はネガティブな私を輝かせてくれると思っていた、、でも、実際には私のネガティブが彼の輝きを失わせてしまっている、、」
奈緒は必死にこの状況を改善しようと努力した。
「私がイラついたり、怒鳴り散らしたりしなくなれば、必ず幸くんも前のように輝いてくれるはずだ!」
イラッとすることがあっても必死にこらえた。
随分と前よりこらえられるようになったとは思う。
なのに何故?!
幸樹は相変わらず「奈緒はいつ豹変してしまうのだろう、、、」という不安の表情が消えていないのだ、、
そんな幸樹を見ると、奈緒は「私がこんだけ頑張っているのに、なんでそんな目で私を見るんだ!」とイラついてしまうのだった。
そんなある日、友達と共に忘年会を開くことにした。
気の許せる仲間同士だったので、奈緒も幸樹も包み隠さずに自分たちの状況を話し出した。
一通り話を聞いた後に友人Sは口を開いた。
S 「なるほどね~。いいんじゃない?悪いことなんて何もないと思うけど?奈緒ちゃんも幸樹君も共に幸せになろうとして必死になっているんだろう?それは素晴らしいことだと思うんだ。」
奈緒 「でも、実際には苦しいんだよ、、具体的には何をするべきなのかな?」
S 「するべき、、、か。奈緒ちゃんは頑張りすぎだね^^ イラつかないように頑張っているだろう?
でも、考えてごらん。自分が普段イラついていないとき、そんなときに「イラつかないようにしよう!」なんて気は張っていないだろう?面白くてしょうがないとき、「なんとしても面白いと感じなくては!」なんて頑張っているかな?」
奈緒 「・・・」
S 「「明日は大切な仕事がある。今日はしっかりと寝ないと!」と頑張った日ほど眠れなかったと言う様な経験はないかな?
本当に眠いときは、ただ眠るんだ。寝ようと頑張ったりはしないんだ。不眠症の人ほど悩む、、、
”なぜ私は眠れないんだ?!今日こそは絶対に眠って見せるぞ!”とね。頑張るんだよ。
どこでも眠れるような友達は、逆に頑張っていないんだよ。”眠れない”なんてことが頭を支配していないんだ。
そして、それが一番重要なところなんだよ。
イラつく人は”イラつく”ことに頭が支配されている。
イラつかない人は”イラつく”というキーワードは頭の片隅にはあったとしても、フォーカスはされていない。
別にイラつかないように頑張っているわけではなく、ただ平穏であるだけなんだよ。」
奈緒 「確かに、すごい頑張っている、、、でも、どうしても”イラつく”というのが頭の中をぐるぐると回ってしまう、、、
それに、実際に自分がイラついたことで周りの雰囲気を変えてしまったりしているのを今までもずっと見ているから、そのイメージが離れない、、、。自分のネガティブは幸君みたいな人まで変えてしまうくらい強いの、、、」
S 「そこまでわかっているのなら、随分と良いよね~。
すべては心なんだ。心は目の前の出来事に反映される。でも、それに気づいたり、信じたりするのはものすごく難しいんだ。奈緒ちゃんは既にそれに気づいているということになる、、、素晴らしいね^^」
奈緒 「確かに必ず影響は与えてしまっているんだけど、いつもネガティブな影響だけなの、、、」
S 「ネガティブもポジティブもないんだよ。心が影響を与えるということがわかっていればそれでいい。そして、自分が今回りに与えている影響が好ましくないと感じるのであれば、好ましいと思う影響を与えるようにすればいいだけ。」
奈緒 「でも、ネガティブなことしか浮かばない、、、」
S 「大丈夫、大丈夫。そんな暗いことばかり言っていないで、楽しいことをやっていればいいんだよ。幸樹君と付き合うことになったときの事を思い出してみな?”幸樹君、ちゃんとキラキラしてよ!”なんて思っていたかな?思っていたわけないだろう? ”今日は絶対にイライラしないぞ!” いちいちそんな決意をしてからデートに出かけていたかな? そんなわけはないだろう。
ただ、”今日も幸樹に会える!うれしい!” そういう気持ちが頭を占めていただろう?」
奈緒 「・・・」
S 「繰り返しになるけど、頑張っているようでは何かがおかしい。次第に”楽しい思い”が膨らんで、気づくと”イラつき”なんかが片隅に追いやられているような感じになっていればいい。そんなこと言っても、難しいと思うだろう。
でも、ヒントはどこにでもあるんだよ。」
「先ほど皆で話していた内容を覚えているかな?「子供はのびのびと育ててあげたい、、、萎縮している子供たちを見ることがあるけど、それは子供のせいではなく、親や周りの影響を受けているんだろうね~」そんなことを話していたね。
「いつも怒っていると、子供たちは何かあるごとにビクッとしたり、、親の顔色をうかがうようになっちゃう。もっと自由にさせてあげたいね~」、、そんなことを話していなかったかな?」
「さらに、「自分の子供は本当にだんなと繋がっていると思う、、いつも同じタイミングで夜に起きたり、痒がったりしている」とね、、、」
奈緒 「・・・! そうか、、、周りの子供たちを見て、「自由にさせてあげたい」と思いながらも、自分は自分のだんなを自由にさせてあげていない、、、幸樹君も子供もそれは同じ、、、、」
S 「そうそう。「笑えよ!!」と語気を強められて笑えるかな?それでは相手の自由を束縛するだけだ。ビクッとさせるだけだよね」
奈緒 「そうか、、自分で自由を束縛するなと言っておきながら、自分は束縛していたのか、、、」
S 「そう、相手のことを認めてあげれればいいね。それだけでいいよね。相手のすることで、とでイラッとすることもあるかもしれない。自分にとってはイラッとすることでも、相手にはそれが重要なのかもしれない、、、。それがやりやすいやり方なのかもしれない。それを尊重してあげてもいいよね?そして、それができる時、本当に救われるのは相手ではない、奈緒ちゃん自身なんだよ。」
奈緒は「時間はかかるかもしれないけど、やってみる」と答えた。
自分を責め、自分の行為を後悔していた奈緒は、後ろではなく、前を向いて歩き出した。