『KEIZAI』という名の宗教

奇妙な宗教

「ソラリス、地球とはどんなところだったかな?」

ソラリスは久しぶりに故郷のヘーブ星に帰省していた。そしてヘーブ星の民衆及び、ソラリスのメンターにその体験を語っていたのだ。

「非常に面白いところです。ただ、、、非常に奇妙な宗教が浸透しています。」

メンターは尋ねた。
「奇妙な宗教?」

ソラリス「はい、非常に奇妙なのです。地球では『KEIZAI』と呼ばれていました。」

メンター「『KEIZAI』?それはどんな宗教だね?」

ソラリス「地球では何をするにも『お金』というものが必要で、それが無いと生きていけないほどの影響力を持っています。そして、それらのお金を出来るだけ集めることで幸せになれるというような教えの様です。」

メンター「『お金』とは何かね?」

ソラリス「う~ん、、、実は私もよく分かりません。恐らく、感謝の気持ちを物理的な形に変換したものだと思います。」

メンター「ほ~、それは興味深い。」

民衆たちも興味深そうに話に耳を傾けている。
民衆の中から一人が声を上げた。

「という事は、「嬉しいな、ありがとう!」と思った時にその『お金』というのは相手に渡すのかな?」

ソラリス「そういう事もあるのですが、そうではない事も多々あるのです、、、」

「そうではない事がある?!どういう事?」
驚きと共に質問の声が上がった。

ソラリス「お金を渡しつつも、感謝はしていないということが非常に多く見受けられるのです」

民衆「???・・・」「『お金』とは感謝の気持ちを形にしたものだと言ってませんでしたか?」
皆、意味がわからずにポカンとしている。

感謝が薄れた?

ソラリス「はい。自分も理解するまで時間がかかりました。元々は感謝を示すツールだったのだとは思うのですが、時間が経つに連れて感謝とは切り離され、『お金』自身がパワーを持つようになったようなのです。」

「う~ん、、、サッパリ意味がわからない、、」
民衆の反応はソラリスが予想していたものだった。ヘーブ星の人達から見ると、『KEIZAI』というのは理解が難しいほどに奇妙なのだ。

ソラリスは説明を始めた。

「皆さん、『お金』を感謝状みたいなものと想像してください。誕生日を祝ってもらったとして、その感謝状を祝ってくれた人々に配る、、、。ここまでは良いですね?」

「ここまでは普通なんです。感謝と何も変わりません。しかしここでもし、この感謝状を大量に刷ったらどうでしょうか?」

民衆「う~ん、、確かに祝ってくれた人が物凄く多かった場合には便利かもしれないが、なんだか味気なくなるだろうね。」
「あまりもらっても嬉しくないな、、」
この仮定に対して、あまり好感は得られないようだ。

ソラリス「私もそう思います。しかし、地球では信じられないほど、本当に信じられないほどに大量に刷られているのです。」

民衆は心配そうに聞いている。質問が上がった。
「するとどうなったのですか?」

ソラリスは答えた。
「その結果、『お金』の受け渡しにおいて感謝の気持ちは薄れました。」

民衆「そりゃあそうだろう、、、」

ソラリスは続けた。
「そして更に驚いたのは、、、『お金』の受け渡しとは関係なく、日々の生活からも『感謝』というものが薄れていってしまったようなのです!なんと感謝の押し付けなどというものが日常的に行われていたりするのです!」

民衆「感謝の押し付け・・・?」「感謝しろ!って言われるということ?」「まさかそんな事は無いだろう?!」

ヘーブ星の人々にとってまるで理解ができない内容だった。

ソラリス「信じられないでしょうけど、本当なのです。母親が子供に対して「ありがとうと言いなさい」などと口にするのは、地球ではよく見られる光景なのです、、」

民衆はざわつき、周りの人々と口々に話し始めた。どうしても理解できない様子だ。

KEIZAIを体験

ソラリスは話を続けた。
「このような奇妙な事を成し得ているのが、先ほどお話した『KEIZAI』という宗教なのです。皆さん、一つ実験をしてみましょう。」

「ここに大量の落ち葉があります。これを『お金』としましょう。”感謝状”です。ただ、この感謝状は普通の感謝状とはちょっと違うのです。普通の感謝状は、何かをしてもらった後に感謝の気持ちが湧き上がった時に書くものですよね?しかし、この『お金』と呼ばれる感謝状は行為より先に渡すことが出来るのです。」

「例えば、私の誕生日は二ヶ月後です。二ヶ月後に祝ってくれると思われる人に予めこの感謝状を送る事ができるのです。「二ヶ月後に自分のこと祝ってくれるでしょう?ありがとうと今のうちに言っておくね!」という事です。こんな感じで感謝状を受け取ったらどう思いますか?」

ソラリスは周りの人々に落ち葉を配って歩いた。

民衆「う~ん、、、なんだかしっくり来ないな、、、。」
民衆「なんかあまりうれしくないな、流れ作業の一つみたいで、、」
民衆「何となく、『祝ってあげなくてはいけないのかな』という気持ちになるし、あまりいい気分ではないな、、、」

人々はあまりいい感じを持っていないようだ。ソラリスは話を続けた。

「そうですよね?これが『KEIZAI』の効果だと思うのです。感謝状を大量に刷ることで『感謝』の気持ちは薄くなり、さらに行為より前に送りつけることで、相手に行為をしなくてはいけない義務感を与えたりもするのです。」

民衆「その結果が”感謝の押し付け”か、、、確かに、そんなプロセスを繰り返されたら自然に感謝の気持ちが湧き上がるなんて機会は減ってしまうのかもしれない、、、」

ヘーブ星の人々は少しだけ『KEIZAI』というものの感覚が掴めたようだ。

感謝状が指令書に、、、

ソラリス「しかし『KEIZAI』の影響力というのはこんなものでは無いのです。もっとずっと影響力が強いシステムになっているのです。どういう事かと言いますと、”感謝状”にレベルをつけているのです。実際にやってみましょう。」

そう言ってソラリスは落ち葉にサラサラと字を書きはじめた。

「感謝☓1」、「感謝☓10」、「感謝☓1000」

そしてそれらの落ち葉を人々に配り始めた。

「これは感謝☓1です。ちょっとありがとうという感じだと思ってください。」
「そしてこれは先ほどの感謝の10倍のレベルの感謝状です。10倍ありがとう!という事ですね。」
「そして、この辺からオイオイというツッコミが来そうですが、これが感謝の1000倍、、、。このように『お金』と呼ばれる感謝状は数値化されており、そんなものが大量に世の中に出回っているのです、、、。」

民衆「こんな感じに配られても、☓1も☓1000も差を感じない気がするけど?」
人々は戸惑っているようだ。

ソラリスは説明を続けた。
「まぁこのままでは、そう思うのが普通でしょうね。しかし、『お金』を感謝状としてではなく、相手に行為をする義務感を与える”指令書”として捉えるとわかりやすくなると思います。実際、地球においては、”感謝状”としての要素よりも寧ろ”指令書”としての要素の方がずっと色濃く出ています。」

「感謝☓1000を渡して、「1000回分先に感謝するので、これをやってください」という風に指令するのです。依頼ではなく、指令という表現を使ったのは、『お金』の受け渡しをした場合には”義務”や”責任”を伴うことが通常だからです。」

「地球において、『お金』の持つ指令書としての力は物凄く強いです。そのために皆はこぞってレベルの高いお金を得ようとします。驚くべきことに、このチカラ無しでは生きていくことさえもできないと考えている人が殆どのように見受けられました、、、」

KEIZAIはなぜ続いている?

ソラリスの話を聞いた人々は一様に驚いていたが、それよりも困惑のほうが強いようだった。

一人が質問した。

民衆「押し付けられるのは誰しも嫌なように思うのですが、指令書は受け取らなくても良いのですか?」

「はい。受け取りは任意です。」
ソラリスが答えると、先の一人が質問を続けた。

「受け取りが任意であるとすると、殆どの人は受け取らず、”指令書”が使われる機会はあまりないように思えるのですが、、」

ソラリスは、それはもっともだと言う様な表情で続けた。

「私もそう思います。しかし、、地球ではそうはなっていません。『お金』の持つ指令書としてのパワーが凄く強いため、皆がこぞって『お金』を得ようとしているのです。これは凄く不思議な光景です^^」

また質問が上がった。
「ところで、この『お金』は誰が作っているのですか?自分で作ってはいけないのですか?」

ソラリスは答えた。
「国ごとの指導的な立場の人々が作っているようです。作り方からして感謝状ではなく、指令書としての要素が強いことがわかりますね。このお金は労働や物品などの提供に対する対価として得ることができます。そういえば面白いものがありますよ。地球では物品や労働を提供する際にお金を要求するのが当たり前ということで、野菜などに「感謝☓50を要求する」みたいな紙が貼ってあったりするんです。値札と呼ばれています。面白いですよね~。なんと感謝を”請求”するんです!」

「逆に『お金』を指令書として使った場合には、感謝してやるからこれをやれと、今度は感謝を”押し付ける”、、、。凄い不思議な光景です。感謝は”自然に湧き上がる”ものだと私はずっと思っていましたから。」

聞いている人々は地球の様子が上手くイメージ出来ないらしく、必死に頭のなかで考えを整理しているようだった。

「実際に見てみないとわからないですよね。」
ソラリスは用意しておいた動画を映しだし、場面場面の説明を行った。

その動画では以下の様な光景が映し出されていた。

  • スーパーのレジ;値札を見ながら料金を徴収
  • 駅の改札;電子機器で人の出入りをコントロール

人々は動画を見て改めて驚いたようだった。

「皆、普通に淡々とやっていますね、、、誰も不思議には思っていないようだ、、、」
「指令している、されているというような感じすら見られない。何でこんなに自然にやっているのだろう?」

ソラリスは人々の反応を見て一旦動画を止め、話し始めた。

「面白いでしょう?我々からすると不思議に思える行為ですが、地球ではごく自然に行われているのです。これらの動画を見ると、この『お金』というツールはわりと上手く使われているようにも見えますね。」

「さて、それではこちらはどうでしょうか?」
そう言って再開した動画ではこんな光景が映し出された。

  • 泥棒
  • 詐欺
  • 貧富格差

「先ほど申しましたとおり、”お金』が無ければ生きていけない”とまで思い詰めている人は地球には沢山いるのです。追い詰められ、このような行為が生まれることもあるのです。見ていて胸が苦しくなるような光景です、、、」

動画を見た人々も胸が苦しくなったようだ。しかしそれよりも、意味がわからず、何でこんな事が??と首を傾げている。

ソラリスは続ける。
「普通に考えたら信じがたいですよね。ただの紙切れですよ。それを奪い合ったり、それが無かったら生きていけないと考えるなんて、、、。それを可能にしているのが『KEIZAI』と呼ばれる宗教なのです。地球では宗教としては扱われませんが、自分からすると地球で一番浸透している宗教のように感じました。」

ここで質問の声が上がった。
「すみません、『KEIZAI』ってどんな宗教でしたっけ?何でこんな宗教がそれほどまでに浸透しているのですか?」

ソラリスは答えた。
「『KEIZAI』とは、”何をするにも『お金』が必要だ。それを得るために皆、頑張りなさい!そうすれば幸せになれる。”というような教えですね。」

「なぜこのような不思議な宗教が浸透しているかは、地球人でない私にははっきりとは分かりません。ただ、自分が見て感じたところをお伝えするとすれば、、、
まず第一に、『お金』をツールとして利用し始めてからかなり長い年月が経ったため、知らぬうちにその利用が皆にとって当たり前とみなされるようになったこと。
そしてもう一つ、これが大きな原因に思えますが、この宗教は殆どの場合、強制加入となっているのです。お金をツールとして使うように国ごとの指導者が法律を作っているのです。」

聴衆からまたまた驚きの声が上がった。
「強制加入?!地球の人々はそれで嬉しいのかしら?」

ソラリスは答えた。
「多くの人々はその宗教を当たり前と思っているために、疑問すら持たない人が大半のように思われます。しかし実際には、その宗教のせいで自由を奪われている人々は多いように見えます。そんな背景もあり、その宗教から逃れたいと思っている人も増えてきているようです。」

「しかし、、、、」
ソラリスはここで少し間を取り、少しして口を開いた。

「逃れたくても、なかなか逃れられないというのが殆どのようです。逃れられたとしても、この宗教から完璧に離れることはかなりの困難を伴うと思っているようです。」

新しい流れを!

ここで聴衆の一人から声が上がった。
「いや、出来るはずよ!だってここ(ヘーブ星)では『お金』なんて無くても全てが回っているのだから!」

更に一人が続く。
「命令ではなく、困ってるのであれば素直に頼めば良いだけのはず。そうすればもっとずっと皆が幸せになれると思うのだけど、なぜそのようにしないのかしら?」

ソラリスは答えた。
「はい。私もまさに同じように感じています。ここにいる誰が地球に行っても同じように感じると思います。それは、、我々がここでの暮らしを知っているからです。私が思うに、我々のような生活形態があるということを地球の人々にも知ってもらうことができたとしたら、きっと自然に『KEIZAI』というような宗教から離れようと思う人が多くなると思います。そして、その数が膨れ上がった時、、、、もはやその宗教は続かなくなると思うのです。もっと自由で、もっと思いやりに満ちた世界になると思うのです。」

メンターは尋ねた。
「それで、地球での生活は楽しいかね?」

ソラリスは答えた。
「はい。色々なことはありますが、生活は楽しいです。友だちもできましたし。地球の人々は、『KEIZAI』以外にも色々なもの(『常識』と呼ばれています)に縛られて自由な考えを持ちにくいようですが、ヘーブ星では当たり前とされる『自由』な思考について話すと理解してくれることもあるのです。そして「肩の荷が下りた」感じがすると喜んでくれたりするのです。殆どは父(ソラディス)がやっているのですが(^_^;) そんな変化を見ていると、地球の人々は『KEIZAI』に囚われること無く自由になれると確信できます。そして、私は父とともにその手助けをできたらいいなと思っているのです。彼らは愛すべき人々ですから^^」