「あー、すごい虫に食われちゃった。いやんなるなあ!」
里美はそう言いながらせっせと虫を取り除いている。
「ん、どうしたんだい?」
通りかかったソラディスは尋ねた。
「すごい数の虫がわいちゃって、頑張って育てた野菜が食べられちゃっているんです、、。これ以上食べられたくないから全部とってやろうと思っているのですけど、とってもとっても出てくるんです、、、」
「ふむ、それは良い学びの機会だね。ただ虫を取り続けていても改善はされないだろうね。」
「でも取らなかったら野菜が全滅してしまうじゃないですか。」
「ふむ、そうかもしれないし、そうではないかもしれないね。どちらにせよ、それはメッセージだ。」
「メッセージ?」
「そうだよ。神様とはそうやって対話をするんだ。」
「???虫が湧いたのがメッセージですか?いったい、何の意味があるんですか?」
「それは自分で考えてごらん?」
ソラディスの言っていることが理解できず、里美は何やら考えながらも虫を取り続けた。
「メッセージ? いったい何の?私が何かしたというの?野菜の育て方がまずかったというのかしら?」
ソラディスの言葉はいつも哲学的で、里美には真意はよくわからない。
ただ、ソラディスの人柄には好感を持っており、いい加減な事を言う人ではないとわかっている。
「ソラディスさんは私に何を伝えようとしているんだろう?」
「お、また虫をとっているんだね。取りたいのであれば取ったらいいでしょう。もしそう思うのであれば、あなたは虫を敵とみなしている。でも実は彼らは敵なんかではないんだ。学びのためのメッセージなんだよ。」
「私も色々考えてはみたんですが、どうしても意味が分からなくて。悩んでる間にも野菜が食べられてしまうので、とりあえず虫を取り続けているのです。」
「たぶん他の畑とかで大量に発生してしまった虫が、うちの畑に流れ込んでいるのだと思います。」
「ふむふむ、虫が湧いてしまったから自分の畑がダメージを受けたと考えているんだね。でも、逆だったらどうする?」
「逆?どういうことですか?」
「虫が来たから君の畑がダメージを受けたのではなく、君にメッセージを与えるために虫が来てくれているのだとしたら?」
「虫が来て”くれている”?!それが先生の言う、メッセージとしてですか?」
「うん、そうだね。」
「うーん、、、それについては私も結構考えたのですが、、、。全然意味が分からなくて。」
「うん、まずは虫と話してみたらどうかな?」
「虫と話す?」
「そう、虫と話すんだ。君たちは何をするために来たんですか?ってね。」
「最初はうまく虫と話せないかもしれない。でも話せるのは虫だけじゃない。あなたが育てている野菜や天気、土なんかとも話せるんだよ。ヘーブ星ではこれを神との対話と呼び、子供の頃からみんな、周りから習うんだよ。」
「神との対話、、、ですか。」
「地球では算数とか国語とかみんな習うだろう?ヘーブ星では一番重要なものとして、『神との対話』を学ぶんだ。」
「うーん、、、なんかよく分かりませんけれども、とりあえずやってみます!」
こうして里美は神との対話を始めた。
「虫さん、なんであなたたちは私の野菜を食べちゃうの?」
里美は何度も虫との対話を試みたが、一度もちゃんとした返事をもらうことができなかった。
「ソラディスさん、虫たちと全然喋れないんですけど、、、」
「ふふふ、ちゃんと話してみたかい?」
「はい、何回も何回も!」
「ふむ。ちなみに君は英語話せるかい?」
「え、英語ですか?いえ、あまり、、、」
「日本語は話せるよね?」
「それはまぁ、、、」
「日本語話せるのに英語を話せない、その差は何かわかるかい?」
「それはやっぱり、日本語ばっかり話してるからじゃないですかね。」
「うん、分かってるじゃないか。そういうことなんだよ。」
「あ、そうか!」
「あなたは虫と何回も何回も話したって言うけれども、英語を話してる回数よりも少ないよね^^」
里美は自分が甘かったことに気づいた。
”虫と話せって言われたって話せるわけないじゃない、、、”
そう思っていた。
しかしよく考えてみれば、私は虫と話すどころかアメリカ人とさえ話すことは出来ないんだ、、、
「ソラディスさん、気軽に虫と話せとか言うから、すぐ話せるのかと思っちゃったじゃない。」
これは長期戦になるかもなと腰を据え、里美は神との対話を続けることにした。
ある日、里美が虫に向かって何か喋っているのを見てソラディスは近づいてきた。
「ふむふむ、やっているね。」
「ただ虫と話そうと思ってもなかなか話せないだろう?」
「そうではないんだ。これは虫との対話ではなく神との対話なんだ。虫と話すのではなく、虫を通して神と話すんだ。」
「どういうことでしょう?」
「うん、まず虫たちを見てごらん。どこに虫がいて、どこに虫がいないか。虫はそこにいて何をしているのか。」
「例えばこの作物には虫がいるが、こちらの作物には虫がいない。これはなぜだろう?」
「なぜでしょうね。」
「それらの作物を見比べてみると、一つは草が混んでいてもう一つはすっきりしている。これはもしかして、太陽の光が入らなかったりして作物は困っているのかもしれない。そういう観点でもうちょっと他の作物も見てみよう。するとやはり、草が混んでいるところには虫が多く付いてるような気もする。そう思うのであれば、混んでいる種をどけてみようかな、と思ったりできるでしょう?虫は口でしゃべるのではなく、行動でメッセージを出しているんだよ。」
「そしてこれは虫だけではなく、全てのものと連携している。例えば最近雨が多い。それで弱った作物が虫に食べられてるのかもしれない。作物が弱ったままだと他の植物がよく育てないので、むしろ食べられてしまった方がいいと植物自身も思ってたりするかもしれない。虫はそれを手助けするために来てくれているのかもしれない。」
「作物が雨からダメージを受けるのだとすると、それはなぜだろう?根っこが息できなくなるからだろうか?もしそうだとすると、水はけが良い地形のところは作物のダメージは少ないのだろうか?そんなことに対する答えを虫は出してくれたりしているんだよ。」
里美はわかったようなわからないような、、、なんだかモヤモヤしながら聞いていた。
「虫がメッセージがあるということに気づいたら、虫にイラついたりすることはなくなり、むしろ感謝するようになるだろう。」
「神との対話は一朝一夕で身に付くものではない、しかし対話ができるようになれば、あなたの人生はまるで違ったものになるだろう。」
そう言ってソラディスは笑った。
第一話 完
第二話 『神との対話2 ~感情を通して~』 に続く。