ある街にユールという青年がいた。
ユールの頭のなかには自然に音楽が浮かんだ。
そしてユールの頭のなかには、その曲に乗せて伝えたいと思うような想いも渦巻いていた。
ユールは声を出して歌ってみた。
ユールは気持ちが良かった。
すべてを忘れて歌い続けた。
『自分の想いを人々に伝えることが出来れば、人々を幸せにできるのではないか』とユールは思ったのだ。
しかし、周りの人々はユールが仕事もせずに歌ばかり歌っていることを訝しげに思った。
「歌ばっかり歌っていずに、お前もしっかりと仕事をしたほうがいいぞ」
町の住人はユールのことを思い、そう忠告してくれた。
ユールには住人の気持ちが痛いほどわかった。
ユール自身が同じような気持ちを経験したことがあるからだ。
『仕事をしろ』、、、、何のために?
皆はその意味を忘れてしまっているのではないのか?
自分はその意味を思い出した。
そして、それを歌にして伝えている。
『いつか伝わる、、いつか理解できる人が増えてくるだろう』と思いながら、、、
ユールには確かにお金は乏しかった。
歌を歌うことはお金は産まなかったからだ。
しかし、ユールは歌い続けた。
そしてある日、ユールは森で不思議な魅力を持つ少女に出会った。
無邪気な笑顔を持つその少女(ジーク)は言った。
「ユールは森は怖い?」
ユールは答えた。
「森なんか怖くないよ」
ジークは言った。
「私は怖いわ。何だかお化けとかクマとか出てきそうだから、、、」
ユールは「少女っていうのは中々絵本の世界で生きているみたいだな、、」と思い、ホンワカとした気分になった。そして悪戯っぽく少女に尋ねた。
「ジーク、もし俺がいなくて一人だったら森なんか歩けなかったんじゃないのか?」
ジークは答えた。
「私、音楽が友達なの。いっつも音楽と一緒にいるのよ。音楽があれば私は怖くない。一人でも、お化けが出そうでも!」
この答えにハッとし、ユールの呼吸は止まった、、、
『音楽』は、少女の助けになっているんだ、、、
理解してくれる人はやはりいるんだ!
歌を歌うということには、やはり意味があるんだ!
たった一人の少女との出会いがユールに与えた応援効果は物凄い大きかった。
ユールは歌を歌う事自体には意味を感じていたが、周りが望むのでなければ、それはタイミングが早過ぎるのかもしれないなとも思っていたところだった。
「頭のなかに『疑念』が湧くといつもこのような事が起こる、、、、人生とは本当に面白いものだ、、、」
ユールの口元はゆるみ、顔は少し明るくなったように見えた。