<<この物語はフィクションです>>
異常気象
ここのところ、もう200日間も毎日、雨が続いている。 作物が育たないために食べ物は満足に得られず、各地では土砂崩れや水没なども報告されている。 「こんなことがあり得ていいのか?!!」 街では皆が憂鬱になり、自殺者まで出る騒ぎだ。 真司は早朝に一人で山の方に歩いて行った。 首を吊ろうと思ったのだ。もはや正常の精神状態では無かった。
謎の老人
山で一人、木にロープを縛り付け、いよいよ死のうと思った瞬間、目の前に白い服を着たお爺さんが立っていた。 ”いつのまにこの人来たんだ?!” 首の辺りに輪っかになったロープを持ったまま、真司は固まっていた。 老人は微笑みながら近づき、口を開いた。 「真司くん、ちょっと散歩に付き合ってくれんか?」 ”??!!何でこの人、俺の名前知ってるんだ?” 頭が真っ白になった真司を置いて、老人は歩き出した。 ”なんだか訳はわからないけど、取り敢えず散歩ぐらい付き合ってやるか。死ぬのはその後でも良いわけだし。”
山登り
困惑しながらも真司は老人を追い、横になって歩き始めた。 散歩に付き合えと言っておきながら、老人は一言も話さずにニコニコしながら歩き続けた。 沈黙に居心地の悪さを感じた真司は口を開いた。 「お爺さん、いつもこの辺、散歩しているんですか?」 「そうじゃな。」 言葉少なに答える老人に対し、真司は気にかかっていたことを尋ねた。 「お爺さんは何故、自分の名前を知っているんですか?」 「フフフ。さぁ、何でじゃろうな?」 お爺さんは相変わらずただニコニコとして、一体何を考えているかわからない、、、 ”それにしても、どこまで行くんだ?もうかなり山を登っているぞ、、” お爺さんはその華奢な見かけによらず、軽い足取りでドンドン登っている。息さえも切れていない。まだ若くて健康な真司はついていくのさえやっとだったのに、、 もう何時間歩いただろうか、、、真司は物凄く疲れ、喉も乾いていた。正直、もはや倒れそうなところまで来ていた。 ”まじかよ、この爺さん、、、こんなの死んじまうよ、、” と心のなかでため息を付いたが、その後に自分自身のコメントの滑稽さが笑えてきた。 ”『こんなの死んじまうよ、、』なんて、、、馬鹿か俺は。自分で死のうとしていたくらいなのにな^^” そんなことを考えている時にお爺さんは声を上げた。
山頂は晴れ!
「お~、ここじゃ、ここじゃ。」 疲れから俯きながら歩いていた真司は、この声に反応して顔を上げた。 「!!!」 真司は声が出なかった。 そこは山頂であり、雲の上だったのだ。 外界にはどんよりとした雨雲がびっしりと覆っているが、山頂はその雲の上であり、晴れていたのだ。 「晴れだ~!!」 真司は思わず叫んだ。 視界の悪い森の中を俯きながら歩いているうちに、いつのまにやら雲の上に出ていたことに丸っきり気づいていなかったのだ。 ずっと見ることがなかったお日様を久しぶりに堪能しながら、真司はゆったりと腰を下ろした。体に当たる日光が温かい。濡れていた体が段々と乾いていくのを見ながら、真司はあらためて太陽の大切さを感じていた。 「太陽が見えないと悲観する必要はない。太陽はいつでもあるんじゃ。太陽が見たければここに来なさい。」 老人はとなりに腰を下ろしながらこう話し始めた。
全て自分自身
「雨が降るのは雲の下だけ。雨続きが嫌ならば、雲の無いところに行きなさい。ほら、ここからだとよく分かるじゃろう?雨雲がどこにあり、どこには無いかが。自分の居場所を決めるのは自分自身なんじゃよ、、、」 真司は頷きながら答えた。 「なるほど、、、」 老人は続けた。 「雨雲なんて言うのはただの一例で、これはすべてに通じる。」 「え?どういうことですか?」 真司には意味がわからなかった。 「良いこと、悪いこと、辛いこと、楽しいこと、、、、すべてに通じるんじゃよ。どれを選択するか、どれを経験するか、、、、それはすべて自分自身が決めるんじゃよ」 こういうと、老人は愉快そうに笑いながら下山していった。 真司はすぐに後を追ったが、すでに老人は視界からは消えていた。 真司はそのまま下山し、道中、色々と考えていた。 雲の下になり、また雨は降り始めたが、真司の心は晴れていた。 死ぬために設置していたロープを静かに解き、真司は思った。 「どうせ選択するなら、幸せになる道を行こう。それがどこかわからないなら、探せばいいんだ。よく考えたら、死ぬくらいならその方が100倍面白いぞ!」