「はぁ~」
由紀子はため息を付いた。
息子の武史の事で悩んでいるのだ。
武史は本当に素直で可愛い子。
いつも自由で、いつも自分の気持を素直に表してくれる。
母として、本当に愛おしく思え、素晴らしい性格だと思っている。
しかし、、、
社会からはどうもそう思われないらしい、、、
「自由すぎる」
「グループ行動ができない」
「落ち着きが無い」
由紀子は悩んだ。
自分の子には好きな様にやらせてあげたい、、、でも、その事で周りから嫌われたりしたら可愛そうだし、、、
私も「どんな躾けをなさっているんですか?」なんて言われるのは嫌だし、、
武史は小学校一年生。
今までしていた自分の自由な行為は、学校の中では疎ましく思われることがあることに気づいた。
特に先生には、、、
武史は好奇心が旺盛で、既に家で漢字などの勉強などをしており、学校で既に知っている”ひらがな”などを習うのはまるで気が乗らなかった。
授業中、「もっと学びたい!もっと知りたい!」という心の声を聞く武史は先生の授業や教科書よりも、図書室にある他の本などに心が飛んで行くのであった。
そして、飛んで行くのは心だけでは済まず、遂には教室を飛び出て図書室に向かってしまうのだった、、、
この行為は先生には『問題行動』に映った。
他の生徒達に悪い影響を与える!
ある日、由紀子は父に何気なくこの事を話すと、父は笑いながらこう答えた。
「アハハハ、さすがは私の孫だな~。俺も子供の頃からずっとそんな感じだったよ^^
小学校では授業中に飛び出して海に行っちゃったり、高校も半年くらい行かなかったりね~。」
そして真面目な顔でこう続けた。
「武史は自由な心を持っている。それは素晴らしいことなんだ。
これを伸ばすか潰すかは周り次第だ。特に家族や学校の先生、友達とかだな。
俺は武史を応援するぞ。もちろん由紀子もな。」
「武史の行動が問題行動と取られるのは、先生に理解してもらっていないからだ。
武史の本当の気持ちが伝われば、絶対にわかってもらえる。
もちろん、あまりに周りに迷惑をかける様な行動は慎むべきだがな。」
「実は、俺は高校の時に先生に話したことがある。
「自分は学校の勉強よりも優先したいことがある。だから、あまり勉強に時間は割けないし、成績は良くないが心配は不要である。」という事をね。
先生は理解してくれたよ。不真面目でサボっているのではなく、やりたいことに対する情熱が強いだけだということがわかってもらえたんだ。」
由紀子は黙って聞いていた。
武史の性格は父譲りか、、、。でも、なかなか他人に認めてもらうのなんて難しいだろうな、、
数日後、担任の先生、Sさんから電話がかかってきた。
「お父様とお話させて頂きました。素晴らしいお父様ですね。いかに武史くんが素晴らしいかを本当に心から伝えてくれましたよ^^
そして要望を出されました。武史を出来るだけ自由にさせてくれと。
この点に関しまして、お父様と色々とお話をさせて頂き、流石に授業中に図書室に一人で抜けたりは遠慮願いますが、個別の教科書持ち込みはOKとさせて頂こうと思っております。
私としても、武史くんの学びたい気持ちを摘んでしまうのはもちろん避けたいと思っておりますので。
まだまだこれからも、至らない点なども出てくると思いますが、その時はまたご指導頂ければ幸いです。」
由紀子は喜びとともに驚きを感じた。
先生の態度がガラリと変わっている、、、
あんなに迷惑そうにしていたのに、、、
父は何を先生に話したのだろう、、
由紀子は父に聞いた。
「お父さん、学校に先生と話しに行ったの?先生、武史に自分用の教科書持ち込みをOKしてくれたわよ。あんなに迷惑そうだったのに、、、」
父はシレッとして答えた。
「な、だから言っただろう?ちゃんと説明すればわかってもらえるって。」
由紀子は思った。
親の背中が大きく見えるっていのはこういう事をいうのかな、、。
いつものんびりとしてて、セカセカした私からするともっとキビキビ動けよ!なんて思っちゃったりもしていたけど、、、
本当に武史のことを信頼しているんだなぁ。先生のことも、、、。
これからは私も、悩むよりも説明路線で行くか~、アハハ
由紀子は久しぶりに肩の荷が下りたような気がして、口元が緩んだ。
・・・・続く 『自分が正しい!という思いが視野を狭める』